2012年5月22日火曜日

「見立て殺人」と「ミッシングリンク」

 「見立て」とは童謡などを用いて事件を装飾する事を指す。つまり事件を童謡などに見立てる殺人事件を「見立て殺人」と呼ぶのである。
  例えば、横溝正史でいうと「○門島」の○○になぞられて殺された事件をいう。この「見立て殺人もの」の中でもっともメジャーな作品はというと、それはアガ サ・クリスティの「そして誰もいなくなった」のマザー・グースになぞらえた連続殺人ではないだろうか。小説以外でいうと映画の「セブン」がズバリ見立て殺 人を扱っている。
 もちろんこんな面倒なことをやるからには相当の理由が必要である(普通はそんなことをする意味がないからだ)。そんなところか ら「どうして見立て殺人にする必要があるのか?」がけっこう事件の謎を解く鍵になったりする。というか、その辺がいい加減だと「読後に壁に叩きつけたくな る本」の出来あがりだ。見立てる事によって、一連の殺人事件に共通点が生まれる。その犯人の目論見(じゃないこともあるが)をこれまでにぼくが読んだ中で 記憶しているものからいくつか挙げてみると……
1.「犯行時に残してしまった証拠から目をそらさせるため」
2.「無関係の事件を、強引に自分の手によると思わせるため」
3.「犯行の順番を錯覚させるため」
4.「残された標的に恐怖をあたえるため」
5.「犯人の人数をごまかすため」


 「ミッシング・リンク」とは「見えない繋がり」のこと。ミステリでは主に「無差別殺人の共通項」を指す。
  例えば、ある町で連続殺人事件が起こる。被害者同士には、一見、なんの共通点もない。サイコパスな通り魔による無差別殺人かと住民はパニックに陥る。しか しやがて、ただの通り魔ではなさそうだとわかってくる。では、被害者を結ぶ「ミッシング・リンク」は何なのか?……というミステリをミッシング・リンク・ テーマの作品と呼ぶ。
 このテーマを扱った作品でまず挙がるのがエラリイ・クイーンの「九尾の猫」だろう。おそらくあと一世紀はミッシング・リン クものの代表作でありつづけると思う。我孫子武丸の「メビウスの殺人」もかなりの傑作なのでおすすめです。ちなみに実在の事件である「切り裂きジャック」 もミッシング・リンクしているといえるだろう。

 この「見立て殺人」「ミッシング・リンク」は、「密室」「アリバイ」の多くのように細細 としたトリックの解説を必要とせず意外性を演出できるため、個人的には割りと好きだ。また、密室トリックや叙述トリックほど開拓されていない気がするの で、意外と傑作ミステリの金脈ではないだろうかと思われる。
 どちらも犯人の心理「何故それをやるのか?」を推理するテーマであるため、サイコサ スペンスに向いているが、比較的「見立て殺人」のほうがおどろおどろしい古典探偵小説めいた稚気があり、本格ミステリ向きである気がする。一方「ミッシン グ・リンク」は現代的な警察小説向きではないだろうか。

 ……いや、某所でこの二つをいっしょくたにしている人がいたから書いてみただけれす。
 犯人が装飾・演出するものを「見立て殺人」、標的とするものを「ミッシング・リンク」なのではないかなと。

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