というわけで10冊のマイフェイバリット書籍をご紹介したところで、
力尽きたので更新休止いたします。
残り90冊は以下の予定でした。
赤川次郎「魔女たちのたそがれ」「三毛猫ホームズの推理」
我孫子武丸「探偵映画」「メビウスの殺人」「人形はこたつで推理する」「殺戮にいたる病」
綾辻行人「時計館の殺人」「どんどん橋、落ちた」
鮎川哲也「りら荘事件」「下り“はつかり”」(達也が嗤う!)
有栖川有栖「双頭の悪魔」
泡坂妻夫「亜愛一郎の狼狽」
歌野晶午「密室殺人ゲーム王手飛車取り」
江戸川乱歩「孤島の鬼」「人間椅子」(特に「ひとでなしの恋」!)
岡嶋二人「クラインの壺」
小川勝己「眩暈を愛して夢を見よ」
乙一「GOTH」
霞流一「首断ち六地蔵」
北山猛邦「『アリス・ミラー城』殺人事件」
倉知淳「星降り山荘の殺人」
黒田研二「今日を忘れた明日の僕へ」
黒崎緑「しゃべくり探偵」
小泉喜美子「弁護側の証人」
小林泰三「AΩ[アルファ・オメガ]」
斎藤肇「たった一つの」
島田荘司「占星術殺人事件」「斜め屋敷の犯罪」「異邦の騎士」「眩暈」
殊能将之「ハサミ男」「鏡の中は日曜日」
清涼院流水「ジョーカー」
高木彬光「人形はなぜ殺される」
竹本健治「匣の中の失楽」
中西智明「消失!」
二階堂黎人「悪霊の館」
西澤保彦「解体諸因」「殺意の集う夜」
西村京太郎「殺しの双曲線」
貫井徳郎「慟哭」
野﨑まど「[映]アムリタ」
法月綸太郎「一の殺人」「頼子のために」
初野晴「1/2の騎士」
東野圭吾「名探偵の掟」「容疑者Xの献身」
東川篤哉「交換殺人に向かない夜」
氷川透「人魚とミノタウロス」「最後から二番目の真実」
古野まほろ「天帝のはしたなき果実」
麻耶雄嵩「螢」「貴族探偵」「夏と冬の奏鳴曲」
汀こるもの「リッターあたりの致死率は」
三津田信三「ホラー作家の棲む家」「厭魅の如き憑くもの」「首無の如き祟るもの」
道尾秀介「向日葵の咲かない夏」
森博嗣「スカイ・クロラ」「そして二人だけになった」
柳広司「ジョーカーゲーム」「ダブルジョーカー」
山口雅也「生ける屍の死」「キッド・ピストルズの妄想」「13人目の探偵士」
山田風太郎「甲賀忍法帖」「明治断頭台」
横溝正史「獄門島」「八つ墓村」「犬神家の一族」
米澤穂信「インシテミル」
米田淳一「リサイクルビン」
詠坂雄二「電氣人間の虞」
連城三紀彦「戻り川心中」
若竹七海「心のなかの冷たい何か」
アガサ・クリスティ「そして誰もいなくなった」「オリエント急行殺人事件」
アントニー・バークリー「毒入りチョコレート事件」
エラリィ・クイーン「Yの悲劇」「シャム双生児の秘密」「九尾の猫」
キャロル・オコンネル「クリスマスに少女は還る」
コナン・ドイル「バスカヴィル家の犬」「シャーロック・ホームズの冒険」
ジェフリー ディーヴァー「魔術師」
ジャック・フットレル「思考機械」(十三号独房の問題!)
ディクスン・カー「帽子収集狂事件」
ピエール.シニアック「ウサギ料理は殺しの味」
ブリジット・オベール「マーチ博士の四人の息子」
約2000冊くらい?の小説を読んできた中からのごく一部です。
ざっと90冊、あたまに浮かんだ小説を列挙しただけですが、あくまで作家名のあいうえお順です。
東野圭吾とかもっと好きな作品があった気がしますし、
「この作家はすでに4冊あげてるから……」と思考を中断したものもありそう。
クイーンや横溝の好きな作品とか気分次第で変わりそうだし……。
また何か機会があれば語りますね。ばいちゃ。
2012年6月7日木曜日
2012年5月27日日曜日
京極夏彦「姑獲鳥の夏」
世間的には「魍魎の匣」のほうが評価が高いようですが、
僕は圧倒的に「姑獲鳥の夏」が好きです。
どこかの推薦文じゃないけど、
この小説を読んだあの夏のことを僕は忘れないでしょう。
あと京極夏彦の百鬼夜行(京極堂)シリーズは、
講談社ノベルスで読め!といいたい。
梅雨も明けようという夏のある日、関口巽は、古くからの友人である中禅寺秋彦の家を訪ねるべく眩暈坂を登っていた。関口は最近耳にした久遠寺家にまつわる奇怪な噂について、京極堂ならば或いは真相を解き明かすことができるのではないかと考えていた。関口は「二十箇月もの間子供を身籠っていることができると思うか」と切り出す。京極堂は驚く様子もなく、「この世には不思議なことなど何もないのだよ」と返す。
久遠寺梗子の夫で、関口らの知り合いである牧朗の失踪、連続して発生した嬰児死亡、代々伝わる「憑物筋の呪い」など、久遠寺家にまつわる数々の事件について、人の記憶を視ることができる超能力探偵・榎木津礼二郎や京極堂の妹である編集記者・中禅寺敦子、東京警視庁の刑事・木場修太郎らを巻き込みながら、事態は展開していく。さらにこの事件は、関口自身の過去とも深く関係していた。
牧朗の行方、妊婦の謎、久遠寺家の闇・・・全ての「憑き物」を落とすため、「拝み屋」京極堂が発つ。
分厚くて、小難しい文字が書かれていて、専門的な薀蓄でみっしりしている本を何冊も読んでいたあの夏の日の僕はどうかしていたのでしょうか。
今思えば、物語をシンプルにまとめると、密室殺人に旧家の呪いといった王道の本格ミステリで、陰陽師と超能力探偵と刑事と作家が謎に挑むというラノベ一歩手前みたいなところがあるので、意外と楽しみやすかったのかも。
ちなみにぼくは関口=のび太、京極堂=ドラえもん、木場=ジャイアン、榎木津=スネ夫という脳内イメージで読んでいたせいか、藤子・F・不二雄の画風で再生されていました。
しかし文庫版の表紙はひどいな。「鳥の夏」(上巻)www
2012年5月26日土曜日
法月綸太郎「法月綸太郎の冒険」
ここでようやく山陰出身の小説家の登場です。
法月綸太郎はぼくの勤める会社のある松江市の出身。
前述の我孫子武丸や綾辻行人と同じ
京大ミステリ研究会で同じ時期をすごした仲間。
他の二人のようにアニメ化されるような作品はなく、
(映像化もされていない気がする)
ゲームのシナリオで有名になったりということもないけれど、
パズルとしての出来の良さは彼ら以上です。
とくに短編のほうが鋭い「驚き」があるように思います。
名探偵・法月綸太郎に挑戦するかのように起こる数々の難事件。なぜ死刑執行当日に死刑囚は殺されたのか、図書館の蔵書の冒頭を切り裂く犯人、男が恋人の肉を食べた理由など異様な謎に立ち向かい綸太郎の推理が冴えわたる。「ルーツ・オブ・法月綸太郎」ともいえるミステリの醍醐味あふれる第一短編集。
「死刑囚パズル」の死刑執行当日に死刑囚を殺さなければならなかった理由。
「カニバリズム小論」の犯人が恋人を食べようと思った理由。
など一言で言い表せるほどシンプルであるがゆえに、破壊力が絶大。
『NOVA 2』というアンソロジーに書かれたSF短編も実に、いいです。
2012年5月25日金曜日
森博嗣「すべてがFになる」
森博嗣の作品で言うと「すべてがFになる」と「スカイ・クロラ」が大好きです。
どちらもなんといっても装丁がいいですね。
あと題名がすき。「すべてがFになる」の「THE PERFECT INSIDER」という英題とか、 The Sky Crawlersを「スカイ・クロラ」という題名にしちゃうセンスとか。
そう、ぼくは森博嗣のセンスが大好きなんですよね。
というわけで、「すべてがFになる」。
犀川研究室の旅行で、愛知県にある妃真加島(ひまかじま・架空)に向かった犀川創平と研究室の面々。犀川の恩師の娘である西之園萌絵も研究室の正式なメンバーではないが参加していた。妃真加島にはその所有者である真賀田家が設立した真賀田研究所があり、実は萌絵は研究所と多少の関わりがあったのだ。
真賀田研究所には優秀な研究者が集い、(世間の常識からは少し外れているが)彼らなりの論理・生活形態とそれを許容する環境の下で精力的に研究を進めている。その頂点に君臨するのが、真賀田四季博士。彼女は現存する最高の天才で、名実ともに研究所の活動の中心人物であった。そしてまた彼女は過去犯した殺人によっても有名人物であり、研究所の一画に隔離されている存在でもあった。
萌絵の提案で研究所を訪れた犀川と萌絵の前に、不可思議な死体が姿を現す。更に続いて起こる殺人事件。2人は研究所で起きた事件の謎にとらわれていく。
孤島での密室殺人(しかもバラバラ死体!)というぞくぞくしちゃう本格ミステリです。
突っ込みどころはないわけではありませんが、トリックは派手で印象的ですし、
この作品をはじめて読んだ時に「おおっ、なんてすごい作家が現れたんだ」と思いました。
唯一の欠点は……残念ながら、この作品がシリーズで圧倒的に面白すぎた、ということ。
なんだか「三毛猫ホームズの推理」のおもしろさと、その後の三毛猫ホームズシリーズの2作目以降の惰性感に似て非なるというか、キャラクタと軽いパズルでもたせましたよ感が残念でした。
かろうじて最初のシリーズ10作と短編集は読破しましたが、その次のVシリーズは1作目でリタイア。
久々に読んだ「スカイ・クロラ」もかなりよかったんですけどね。
これは先に映画版をみた。
現物がまた高級感と清涼感があって、
シリーズを本棚に飾っておくだけでなんかおしゃれです。
2012年5月24日木曜日
我孫子武丸「8の殺人」
これまで自分の好きな書籍を列挙してきました。
(そうだったの?! 実はそうなんです。必ずしも順位通りでもないけど・・・)
では、一番好きな作家はだれか?
というと、それはもう、我孫子武丸です。
そう、「かまいたちの夜」の人ですね。
ぼくは中学時代に「かまいたちの夜」から正式にミステリファンとして覚醒したので、
この方の著作物を片っ端から読んでいた時期がありました。
当時は一冊読んで「はい、次」じゃなくて、
「メビウスの殺人を読んだ」→「再読して張り巡らされた伏線に感動!」→「0の殺人を・・・」→「再読を・・・」→「8の殺人を・・・」→「やべ、シリーズを逆行していたよ! 速水三兄弟シリーズをもう一度8→0→メビウスの順に読もう!」→「次は探偵映画だ」
と同じ本を何度も読み返しました。
ミステリのガイドブック関係があることを知らず、Webの環境もなかった時代、ぼくは信頼できる作家を拠点に読んでいくしかなかった。我孫子武丸→綾辻行人→法月綸太郎と読み進め、並行して赤川次郎やなんかも読むようになり、現在に至るわけで。
でも、大学時代に横溝一気読みしたり、乱歩にはまったり、ひたすらクイーンばかり読んでいたり、「作家読み」の傾向はどこか残っていますね。
で、そんな我孫子さんの第一長編「8の殺人」です。
建物の内部にある中庭が渡り廊下で結ばれた、通称“8の字屋敷”で起きたボウガンによる連続殺人。最初の犠牲者は鍵を掛け人が寝ていた部屋から撃たれ、二人目は密室のドアの内側に磔に。速水警部補が推理マニアの弟、妹とともにその難解な謎に挑戦する、デビュー作にして傑作の誉れ高い長編ミステリー。
上にも書いた通り、速水3兄弟シリーズは思い入れがあり、
「8の殺人」は10回は再読をしたはずです。
作中の「密室談義」の章で、殺人事件の関係者一同が集まる場であるにも関わらず、楽しそうに古今東西の密室トリックをするさまが楽しかったり、のちに赤川次郎にはまり中に再読をした際に三毛猫ホームズを推している箇所に改めて驚いたり、まさに「読むたびに発見がある」感じでした。
この、ミステリ小説なのに堅苦しくなく、明るく楽しく読める雰囲気が大好きであり、読書への抵抗感を薄れさせたのでしょうね。それだけにここから他の作家への移行がまた勇気を必要としたわけで。
どうも、思い入れのありすぎる作品だとまとまりがないですね。
「メビウスの殺人」も思い入れが半端ないので、またそのうちに……。
2012年5月23日水曜日
江戸川乱歩のかきたかったもの
何を隠そう、ぼくは十年前(中学生のとき)に江戸川乱歩の全集を読破したことがあります(赤川次郎を100冊読んだことの次くらいに自慢です)。大学が文学部なら絶対に乱歩をテーマにしました。
江 戸川乱歩っていうのは、長編の本格ミステリを書きたくても書けなかった人だと思います。なぜなら彼はポウやドイルといった本格ミステリの起源に対応する 「日本のポウ」だから。ドイルがクリスティになれないように、乱歩はクイーンやカーやクリスティにはなれなかった。なれるのは後進の横溝正史らだった。そ ういうことじゃないかと思っています。
『本来、あれだけ「本格」にこだわったはずの乱歩が、「本格探偵小説」、特に長編の分野で本格を全く書けなかったのは皮肉といってよ い。もちろん、長編を書く舞台がなかったという不運はあるものの、後の乱歩の作品を見ると、彼自身に長編本格を書く才能はなかったといってもよかろう。』(「謎宮会」浅井 透明 氏の考察より http://tokyo.cool.ne.jp/meikyu/art00/asi0010c.html)
乱歩が喜びそうなものってなんでしょう?
乱歩が書きたかったものはなんでしょう?
世間で乱歩のイメージってなんでしょう?
【俺の中の偏見】
・乱歩らしさ→奇妙さや怪異
・乱歩が書きたがっていそう→論理重視の犯人当て
・乱歩のイメージ→名探偵や怪人の出てくる本格ミステリ
まあ、現代で「江戸川」といえば「コナン」なんでしょうけどね。
江 戸川乱歩っていうのは、長編の本格ミステリを書きたくても書けなかった人だと思います。なぜなら彼はポウやドイルといった本格ミステリの起源に対応する 「日本のポウ」だから。ドイルがクリスティになれないように、乱歩はクイーンやカーやクリスティにはなれなかった。なれるのは後進の横溝正史らだった。そ ういうことじゃないかと思っています。
『本来、あれだけ「本格」にこだわったはずの乱歩が、「本格探偵小説」、特に長編の分野で本格を全く書けなかったのは皮肉といってよ い。もちろん、長編を書く舞台がなかったという不運はあるものの、後の乱歩の作品を見ると、彼自身に長編本格を書く才能はなかったといってもよかろう。』(「謎宮会」浅井 透明 氏の考察より http://tokyo.cool.ne.jp/meikyu/art00/asi0010c.html)
乱歩が喜びそうなものってなんでしょう?
乱歩が書きたかったものはなんでしょう?
世間で乱歩のイメージってなんでしょう?
【俺の中の偏見】
・乱歩らしさ→奇妙さや怪異
・乱歩が書きたがっていそう→論理重視の犯人当て
・乱歩のイメージ→名探偵や怪人の出てくる本格ミステリ
まあ、現代で「江戸川」といえば「コナン」なんでしょうけどね。
2012年5月22日火曜日
「見立て殺人」と「ミッシングリンク」
「見立て」とは童謡などを用いて事件を装飾する事を指す。つまり事件を童謡などに見立てる殺人事件を「見立て殺人」と呼ぶのである。
例えば、横溝正史でいうと「○門島」の○○になぞられて殺された事件をいう。この「見立て殺人もの」の中でもっともメジャーな作品はというと、それはアガ サ・クリスティの「そして誰もいなくなった」のマザー・グースになぞらえた連続殺人ではないだろうか。小説以外でいうと映画の「セブン」がズバリ見立て殺 人を扱っている。
もちろんこんな面倒なことをやるからには相当の理由が必要である(普通はそんなことをする意味がないからだ)。そんなところか ら「どうして見立て殺人にする必要があるのか?」がけっこう事件の謎を解く鍵になったりする。というか、その辺がいい加減だと「読後に壁に叩きつけたくな る本」の出来あがりだ。見立てる事によって、一連の殺人事件に共通点が生まれる。その犯人の目論見(じゃないこともあるが)をこれまでにぼくが読んだ中で 記憶しているものからいくつか挙げてみると……
1.「犯行時に残してしまった証拠から目をそらさせるため」
2.「無関係の事件を、強引に自分の手によると思わせるため」
3.「犯行の順番を錯覚させるため」
4.「残された標的に恐怖をあたえるため」
5.「犯人の人数をごまかすため」
「ミッシング・リンク」とは「見えない繋がり」のこと。ミステリでは主に「無差別殺人の共通項」を指す。
例えば、ある町で連続殺人事件が起こる。被害者同士には、一見、なんの共通点もない。サイコパスな通り魔による無差別殺人かと住民はパニックに陥る。しか しやがて、ただの通り魔ではなさそうだとわかってくる。では、被害者を結ぶ「ミッシング・リンク」は何なのか?……というミステリをミッシング・リンク・ テーマの作品と呼ぶ。
このテーマを扱った作品でまず挙がるのがエラリイ・クイーンの「九尾の猫」だろう。おそらくあと一世紀はミッシング・リン クものの代表作でありつづけると思う。我孫子武丸の「メビウスの殺人」もかなりの傑作なのでおすすめです。ちなみに実在の事件である「切り裂きジャック」 もミッシング・リンクしているといえるだろう。
この「見立て殺人」「ミッシング・リンク」は、「密室」「アリバイ」の多くのように細細 としたトリックの解説を必要とせず意外性を演出できるため、個人的には割りと好きだ。また、密室トリックや叙述トリックほど開拓されていない気がするの で、意外と傑作ミステリの金脈ではないだろうかと思われる。
どちらも犯人の心理「何故それをやるのか?」を推理するテーマであるため、サイコサ スペンスに向いているが、比較的「見立て殺人」のほうがおどろおどろしい古典探偵小説めいた稚気があり、本格ミステリ向きである気がする。一方「ミッシン グ・リンク」は現代的な警察小説向きではないだろうか。
……いや、某所でこの二つをいっしょくたにしている人がいたから書いてみただけれす。
犯人が装飾・演出するものを「見立て殺人」、標的とするものを「ミッシング・リンク」なのではないかなと。
例えば、横溝正史でいうと「○門島」の○○になぞられて殺された事件をいう。この「見立て殺人もの」の中でもっともメジャーな作品はというと、それはアガ サ・クリスティの「そして誰もいなくなった」のマザー・グースになぞらえた連続殺人ではないだろうか。小説以外でいうと映画の「セブン」がズバリ見立て殺 人を扱っている。
もちろんこんな面倒なことをやるからには相当の理由が必要である(普通はそんなことをする意味がないからだ)。そんなところか ら「どうして見立て殺人にする必要があるのか?」がけっこう事件の謎を解く鍵になったりする。というか、その辺がいい加減だと「読後に壁に叩きつけたくな る本」の出来あがりだ。見立てる事によって、一連の殺人事件に共通点が生まれる。その犯人の目論見(じゃないこともあるが)をこれまでにぼくが読んだ中で 記憶しているものからいくつか挙げてみると……
1.「犯行時に残してしまった証拠から目をそらさせるため」
2.「無関係の事件を、強引に自分の手によると思わせるため」
3.「犯行の順番を錯覚させるため」
4.「残された標的に恐怖をあたえるため」
5.「犯人の人数をごまかすため」
「ミッシング・リンク」とは「見えない繋がり」のこと。ミステリでは主に「無差別殺人の共通項」を指す。
例えば、ある町で連続殺人事件が起こる。被害者同士には、一見、なんの共通点もない。サイコパスな通り魔による無差別殺人かと住民はパニックに陥る。しか しやがて、ただの通り魔ではなさそうだとわかってくる。では、被害者を結ぶ「ミッシング・リンク」は何なのか?……というミステリをミッシング・リンク・ テーマの作品と呼ぶ。
このテーマを扱った作品でまず挙がるのがエラリイ・クイーンの「九尾の猫」だろう。おそらくあと一世紀はミッシング・リン クものの代表作でありつづけると思う。我孫子武丸の「メビウスの殺人」もかなりの傑作なのでおすすめです。ちなみに実在の事件である「切り裂きジャック」 もミッシング・リンクしているといえるだろう。
この「見立て殺人」「ミッシング・リンク」は、「密室」「アリバイ」の多くのように細細 としたトリックの解説を必要とせず意外性を演出できるため、個人的には割りと好きだ。また、密室トリックや叙述トリックほど開拓されていない気がするの で、意外と傑作ミステリの金脈ではないだろうかと思われる。
どちらも犯人の心理「何故それをやるのか?」を推理するテーマであるため、サイコサ スペンスに向いているが、比較的「見立て殺人」のほうがおどろおどろしい古典探偵小説めいた稚気があり、本格ミステリ向きである気がする。一方「ミッシン グ・リンク」は現代的な警察小説向きではないだろうか。
……いや、某所でこの二つをいっしょくたにしている人がいたから書いてみただけれす。
犯人が装飾・演出するものを「見立て殺人」、標的とするものを「ミッシング・リンク」なのではないかなと。
2012年5月21日月曜日
十戒と二十則
とりあえず古来よりミステリ史にたびたび登場し、「神聖モテモテ王国」でほのめかされるくらい有名な以下の十戒と、二十則を引用してみる。
------------------
◆ ノックスの十戒 ◆
「1」犯人は物語の冒頭、初期の段階から登場していなければならない。
「2」超自然的要素や魔術的要素を物語に持ち込んではならない。
「3」存在を推測することが可能なら、秘密の部屋や秘密の通路はひとつだけ許される。
「4」科学上未確定の毒物や、難解な説明を要する毒薬や小道具を使ってはならない。
「5」中国人を重要な役割で登場させてはならない。
※当時、欧米では中国人は魔術を使うような怪しげな人物と考えられていた。
「6」偶然の発見や探偵の直感によって事件を解決してはならない。
「7」探偵自身が犯人であってはならない。
「8」読者の知らない手がかりによって解決してはならない。
「9」ワトソン役(事件の記述者)は彼自身の判断をすべて読者に知らせるべきである。そして、その知性は平均的な読者の知性を僅かに下回っていなくてはならない。
「10」双生児や変装による2人1役は、その出現を自然に予測できる場合を除いては登場させるべきではない。
------------------
◆ ヴァン・ダインの二十則 ◆
「1」すべての手がかりは少しも隠すことなく読者に示されねばならない。
「2」作中で犯人が行うトリック以外に、作者が読者にトリックを使ってはいけない。
「3」作中に大きな恋愛趣味を取り入れてはならない。
「4」探偵が犯人だったという解決はいけない。
「5」偶然の発見や犯人の自白によって事件を解決してはならない。
「6」必ず探偵の役目を務める人物が登場し、その人の推理によって事件が解決されなければならない。
「7」殺人事件が望ましい。それよりも軽い犯罪では長編を読ませる力が生じない。
「8」心霊術、読心術、水晶体凝視、自動手記などの迷信やお告げなどによって解決されてはいけない。
「9」主人公探偵はひとりが良い。そうでないと、読者はリレーのチームを相手に競争しているようなアンフェアを感じる。
「10」犯人は相当重要な最初からの登場人物のひとりでなくてはならない。
「11」屋敷の使用人など、読者が最初から除外しているような人物が犯人であってはならない。
「12」いくつ殺人事件があっても、それらの犯人はひとりであることが望ましい。
「13」秘密結社など複数犯人の事件は避けるべきである。
「14」犯罪手段も探偵方法も、合理的・科学的でなければならない。空想科学による非現実の武器を用いてはならない。
「15」犯人が判明したあとで、読者が小説の前の方を読み返してみて、なるほど、ここに明瞭な手がかりが書いてある、私も作中の探偵の同様に注意深ければ、犯人を発見することができたのだ、と思わせるように書かなければならない。
「16」雰囲気や登場人物の性格描写などは、推理的興味を妨げない程度にとどめるべきである。余談が入ってはいけない。
「17」その筋によく知られているような常習犯を主人公とするのは避けるべきである。犯罪などをやりそうもないような、意外な人物が犯人であることが望ましい。
「18」過失致死や自殺であった、という解決で読者を失望させてはならない。
「19」動機は個人的なものが望ましい。
「20」次にあげるような常套手段は避けるべきである。
A:タバコの吸い殻による手がかり
B:催眠術による自白
C:指紋の偽造
D:替え玉によるアリバイ
E:犬が吠えなかったから犯人はその家に親しい人物であるという推理
F:双子、または外見が酷似している血縁者による替え玉トリック
G:注射針の使用。飲料に麻酔薬の滴下
H:密室殺人で、警官が踏み込んだあとでの殺害トリック(発見者が犯人)
I:言語反応による心理テスト
J:暗号の使用
------------------
この二者の残した文章、現代ミステリ界では「そんなに気にすることないよ」とされている。時代の変化ということもあるのだろうが、別に「十戒に該当するからこの作品はダメだ」といわれることはないようだ。
しかし、この十戒と二十則から読み取れることがある。ひらたくいえば「こんなネタ使われたら萎えるよ」である。逆に言えば「本格ミステリに、ファンが求めることは何か」である。そして時代は変わろうとも、ミステリ読者が本格に求めるものは何か。
僕なら 「マッハ!!!!!!!!」のコピー っぽく、こんなふうにまとめたいなあ。
------------------
1.犯人は物語初期の段階から重要人物として登場します。
2.探偵や語り手が犯人だったというありがちな解決はやりません。
3.組織的犯罪(ヤクザ、マフィアなど)禁止です。素人の単独犯が最高。
4.犯人は超能力や魔法、幽霊、宇宙人、未知の科学などSFトリックを使いません。
5.すべての手がかりは読者に予想できる範囲できちんと提示されます。
6.探偵のあてずっぽう、犯人の自白による解決はしません。
7.事件の謎は主に殺人事件に関することです。
8.二重人格、幼児期虐待のトラウマなどありがちなサイコネタは使いません。
9.とても賢い名探偵役が登場し、論理的思考能力だけで事件を解決します。
------------------
------------------
◆ ノックスの十戒 ◆
「1」犯人は物語の冒頭、初期の段階から登場していなければならない。
「2」超自然的要素や魔術的要素を物語に持ち込んではならない。
「3」存在を推測することが可能なら、秘密の部屋や秘密の通路はひとつだけ許される。
「4」科学上未確定の毒物や、難解な説明を要する毒薬や小道具を使ってはならない。
「5」中国人を重要な役割で登場させてはならない。
※当時、欧米では中国人は魔術を使うような怪しげな人物と考えられていた。
「6」偶然の発見や探偵の直感によって事件を解決してはならない。
「7」探偵自身が犯人であってはならない。
「8」読者の知らない手がかりによって解決してはならない。
「9」ワトソン役(事件の記述者)は彼自身の判断をすべて読者に知らせるべきである。そして、その知性は平均的な読者の知性を僅かに下回っていなくてはならない。
「10」双生児や変装による2人1役は、その出現を自然に予測できる場合を除いては登場させるべきではない。
------------------
◆ ヴァン・ダインの二十則 ◆
「1」すべての手がかりは少しも隠すことなく読者に示されねばならない。
「2」作中で犯人が行うトリック以外に、作者が読者にトリックを使ってはいけない。
「3」作中に大きな恋愛趣味を取り入れてはならない。
「4」探偵が犯人だったという解決はいけない。
「5」偶然の発見や犯人の自白によって事件を解決してはならない。
「6」必ず探偵の役目を務める人物が登場し、その人の推理によって事件が解決されなければならない。
「7」殺人事件が望ましい。それよりも軽い犯罪では長編を読ませる力が生じない。
「8」心霊術、読心術、水晶体凝視、自動手記などの迷信やお告げなどによって解決されてはいけない。
「9」主人公探偵はひとりが良い。そうでないと、読者はリレーのチームを相手に競争しているようなアンフェアを感じる。
「10」犯人は相当重要な最初からの登場人物のひとりでなくてはならない。
「11」屋敷の使用人など、読者が最初から除外しているような人物が犯人であってはならない。
「12」いくつ殺人事件があっても、それらの犯人はひとりであることが望ましい。
「13」秘密結社など複数犯人の事件は避けるべきである。
「14」犯罪手段も探偵方法も、合理的・科学的でなければならない。空想科学による非現実の武器を用いてはならない。
「15」犯人が判明したあとで、読者が小説の前の方を読み返してみて、なるほど、ここに明瞭な手がかりが書いてある、私も作中の探偵の同様に注意深ければ、犯人を発見することができたのだ、と思わせるように書かなければならない。
「16」雰囲気や登場人物の性格描写などは、推理的興味を妨げない程度にとどめるべきである。余談が入ってはいけない。
「17」その筋によく知られているような常習犯を主人公とするのは避けるべきである。犯罪などをやりそうもないような、意外な人物が犯人であることが望ましい。
「18」過失致死や自殺であった、という解決で読者を失望させてはならない。
「19」動機は個人的なものが望ましい。
「20」次にあげるような常套手段は避けるべきである。
A:タバコの吸い殻による手がかり
B:催眠術による自白
C:指紋の偽造
D:替え玉によるアリバイ
E:犬が吠えなかったから犯人はその家に親しい人物であるという推理
F:双子、または外見が酷似している血縁者による替え玉トリック
G:注射針の使用。飲料に麻酔薬の滴下
H:密室殺人で、警官が踏み込んだあとでの殺害トリック(発見者が犯人)
I:言語反応による心理テスト
J:暗号の使用
------------------
この二者の残した文章、現代ミステリ界では「そんなに気にすることないよ」とされている。時代の変化ということもあるのだろうが、別に「十戒に該当するからこの作品はダメだ」といわれることはないようだ。
しかし、この十戒と二十則から読み取れることがある。ひらたくいえば「こんなネタ使われたら萎えるよ」である。逆に言えば「本格ミステリに、ファンが求めることは何か」である。そして時代は変わろうとも、ミステリ読者が本格に求めるものは何か。
僕なら 「マッハ!!!!!!!!」のコピー っぽく、こんなふうにまとめたいなあ。
------------------
1.犯人は物語初期の段階から重要人物として登場します。
2.探偵や語り手が犯人だったというありがちな解決はやりません。
3.組織的犯罪(ヤクザ、マフィアなど)禁止です。素人の単独犯が最高。
4.犯人は超能力や魔法、幽霊、宇宙人、未知の科学などSFトリックを使いません。
5.すべての手がかりは読者に予想できる範囲できちんと提示されます。
6.探偵のあてずっぽう、犯人の自白による解決はしません。
7.事件の謎は主に殺人事件に関することです。
8.二重人格、幼児期虐待のトラウマなどありがちなサイコネタは使いません。
9.とても賢い名探偵役が登場し、論理的思考能力だけで事件を解決します。
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2012年5月20日日曜日
本格ミステリの定義について
本の感想を書くだけどいうのも芸がないので、評論?めいた記事も書いてみます。
といっても、数年前に別のブログにかいたものの改訂版ですが。
「本格ミステリ」、というジャンルが好きです。
一言でいうと「謎解きをメインにした推理小説」、かな。
「本格ミステリ」というのは具体的にどんな作品が本格なのか、実は完全に定まっているものではありません。
人によって違うために「これは本格として優れている」と感想を述べる人もいれば、そこに「その作品のどこが本格だよ!」と突っ込む人がいたりします。
人によって「本格」の定義は違うのです。
以下におおまかに書き出してみましょう。
■よくいわれる本格の定義いろいろ
1.魅力的かつ幻想的な謎(主に犯罪)が提示され、頭のいい読者なら解ける(ような気がする)ヒント(伏線)をフェアに提示し、探偵役が論理的に真実を開示するパズル小説。
2.解決に必ず意外性(どんでん返し)がなければならない。「なるほど」「伏線がこんなにあったのにわからなかった」「やられたっ」と読者に衝撃を与える小説。
3.物語中におけるすべての記述が謎の解決に関係した(無関係の要素が少ない)伏線である小説。
4.「密室殺人」「館での殺人事件」「名探偵が皆を集めて事件を解説」などの要素を意識した作品。
5.人工的なトリックが使われたリアリティのない小説。
6.「本格ミステリ」と作者や出版社が謳っている作品。
7.雰囲気。なんとなく。
このうちどれかに当てはまったら本格なのかね?
それじゃあほとんど「俺が気に入ったら本格」っていうのと変わらんがな(´・ω・`)
まあ、実際のところは1が過半数を占める意見であると思います。そこに2や3といった各々の理想がトッピングされて、4という印象を持つ読者がいて、5という批判や6というビジネスが発生し、7という批評家がいるわけです。
問題は1以外のものを「本格」と呼んだ人がいて、それを気に入ったからとひとくくりにした当時の批評家や出版社ではないかと。
だから1の定義でおさまらないために「本格の定義とは?!」「いや、だからその定義では○○は本格じゃないことになるでしょ」という議論になっているのではないかなあと。
『江戸川乱歩賞といえばミステリの芥川賞に例えられるが、ミステリの中核であるべき本格が選ばれることはなくなった。いやそうではな くて、本格の良い作品が応募されないから、結果的に選らばれないのだと関係者は言うかもしれない。しかしそれは違うだろう。江戸川乱歩賞は本格では取れな いから応募しないのだ。』
(「夢のまた夢」http://www.cam.hi-ho.ne.jp/kohei_i/writing/yume.html)
とりあえずこのように自分は本格ミステリというものを定義します。
『魅力的な謎が早い段階で提示され、作中人物は謎に挑み、伏線をフェアに記述しつつ、結末で意外性をもって真相を開示することを主目的とした謎解きあかし小説』
こんなシンプルなものです。
言葉にすると上のような形になりますが、要するに①ビックリドッキリ主義②伏線がしっかりと納得できる程度にはある③別に提示される謎がフェイク(衝撃の真相は別にある)でもOK……という面白味を持ったもの。
そこには怪奇的なものが非常に合うが別になくてもいい。
探偵的な人が解決しないと寂しいが、なくても(犯人の自供でも)本格は本格。
ここには「殺戮にいたる病」みたいなものも該当します。
もちろん「十角館」も該当します。
倒叙ミステリであっても、なんらかの謎がを解くために話が展開し、伏線がしっかり張られた衝撃的な結末があれば俺的には本格ミステリです。
またいくら捜査をしても、それが謎解きや伏線より、人情や社会問題ばかり重視されていたら本格ミステリではありません。社会派推理小説です。
(つまり「三毛猫ホームズの推理」辺りは本格ミステリだけど、シリーズ後期作品は本格ではないものが多い)
なんかツッコミどころ満載な気もしますが、とりあえずこれで。
参考文献
JUNK-LAND内
「一千億の理想郷」(http://www.cc.rim.or.jp/~yanai/utopia/top.html)
2012年5月19日土曜日
綾辻行人「人形館の殺人」
「アナザー」がアニメ化されて、
アニメおたく界でなんか語られているのがむずむずします。
子供のころに世話になったおにいさんが、
なんか別世界でもてはやされてるかのような……。
終始ぼんやりとしたとらえどころのない雰囲気に包まれた、
「館」シリーズの第4作がぼくのおすすめ。
たぶん一般的には「時計館」「十角館」あたりがウケるんでしょうし、
ぼくもそちらの作品も好きなのですが、
完成度はけして高くないけど、妙に愛着があるのがこの「人形館」。
あらすじ
亡父が残した京都の邸「人形館」に飛龍想一が移り住んだその時から、驚倒のドラマが開始した。邸には父の遺産というべき妖しい人形たちが陣取り、近所では通り魔殺人が続発する。やがて想一自身にも姿なき殺人者がしのび寄る。名探偵島田潔と謎の建築家中村青司との組合せが生む館シリーズ最大の戦慄。
“異色作”。館シリーズの“仕掛け”に慣れてきた読者たちをやっつけてやろうと筆者は考えたのだろうけども、実際にやられてしまう読者が何%いるかは疑問。ただ、「雰囲気」を醸し出してはいるので、どうしても忘れられない傑作。
実に雰囲気がいいのです。この、封印された幼いころの記憶と、じめじめした古都の町の雰囲気が。
2012年5月18日金曜日
折原一「倒錯のロンド」
それも「ミステリを書くミステリ」という多重構造なお話です。
2000冊くらいの本を読んできたぼくだけど、
これが一番リピートした作品かもしれない。
精魂こめて執筆し、受賞まちがいなしと自負した推理小説新人賞応募作が盗まれた。―その“原作者”と“盗作者”の、緊迫の駆け引き。巧妙極まりない仕掛けとリフレインする謎が解き明かされたときの衝撃の真相。鬼才島田荘司氏が「驚嘆すべき傑作」と賞替する、本格推理の新鋭による力作長編推理。
この作品のトリックはラスト10%でそこまでの90%の物語を反転させるので、
とある錯覚にひっかかっていた読者は、世界が崩壊したような衝撃を受ける。
(といっても、意外と構造は複雑なので、ちょっとした読解力はいるかも)
ただ、何度も何度も読み返すのは、そうした仕掛けのすごさだけじゃなくて、
主人公が必死にミステリを書きあげようとする執念とか、そのあたりです。
何かを作ろうとする人間の姿というものは、傍で見ていると楽しいものです。
小説を書くのがすきなひと、
小説家になるのが夢の人には特におすすめ。
2012年5月17日木曜日
石田衣良「アキハバラ@DEEP」
ミステリとしての濃度はかなり薄い。
(一応、とある視点の問題について仕掛けはあるがおまけ程度)。
36回オール讀物推理小説新人賞を受賞した
「池袋ウエストゲートパーク」
の石田衣良だから
……というのも言い訳にならないレベルだ。
でも、まあ、いいや。
このブログは個人的に好きな小説を紹介するだけだから。
重度の吃音だが、天才的な文章を書く「ページ」。
異常な潔癖症だが、天才的なデザイナー「ボックス」。 不定期にフリーズしてしまう奇病の持ち主だが、天才的なミュージシャン「タイコ」。 コスプレ喫茶のウエイトレスだが、天才美少女格闘家「アキラ」。 10年間の引きこもりの反動で家に帰れなくなった「ダルマ」。 色素欠乏症の天才プログラマ「イズム」。 六人は、人生相談サイト「ユイのライフガード」を通じ、ベンチャー企業「アキハバラ@DEEP」を立ち上げ、画期的な検索エンジン「クルーク」を開発する。
当時、ホリエモンなどの影響で起業ものの異色作として(というか、池袋~が好きで作者買いしたんだけど)読んだけど、この作品のもつ雰囲気に惹かれた。致命的なダメ人間でも才能ひとつあれば、仲間がいれば活躍できるんだ、と。
この作品を読んで、さらに映画版と漫画版とドラマ版を読んで、実際に秋葉原にいってしまった。
ドラマ版でみんなで「作戦会議」してた食堂にも実際に行った。そこまでさせてしまうすごい小説なのだ。僕にとっては。
僕は美少女アニメにもフィギュアにもエロゲーにもほぼ興味ないけど(パソコンショップには興味全開だけど)あの街特有の、異世界感みたいなものが好き。
けして秋葉原をリアルに描写した作品ではないけど、そういう視点で秋葉原の魅力に気づけたのは収穫だった。ちなみに小説版よりドラマ版、漫画版の方が面白い(映画版はそれほどでもない)。たぶんイズム(プログラマー)が女性の方がいいんだと思う。
ちなみにネット上で俺ほどこの作品に熱意をもっている感想がなかった。
もしかしたら、人を選ぶ作品なのかもしれない。面白いのになあ。
余談ながら、前回取り上げた「The S.O.U.P.」の文庫版解説は石田衣良。互いに同じタイプの作品として、意識しているらしい。
2012年5月16日水曜日
川端裕人「The S.O.U.P.」
ネットワークゲームをかじったことがある人のための、
冒険小説?
ミステリ?
というかなんというか。
いわゆるウルティマオンライン、FF11(14)、
ラグナロクオンライン的なMMORPGを中心とした
インターネットサービスの世界に、
2ちゃんねらー的な引きこもりニートコミュ障な人々が集い、
サイバーテロを起こそうとする敵を暴くために、
主人公がFBIに協力して立ち向かう話
……という説明でどこか気になったら是非。
あらすじ
世界中を熱狂させたゲーム、「S.O.U.P.」の開発から十年。プログラマから一転、セキュリティを護るハッカーとして、FBIの依頼もこなす巧に、経済産業省から、悪質なHP侵入者を突き止めてほしいという依頼が入る。犯人を追い詰めた巧が見つけたのは、自分たちの開発した「S.O.U.P.」に巣食う、サイバー・テロリスト集団だった!そして今、世界を巻き込むインターネット戦争が幕を開ける。ネット社会の陥穽を鋭く突いた、エンタテインメント・ノベル。
ちょっとパソコンを触ったことのある人(今、ほとんどの成人がそうだろうけど)にとって、ドラマとかで出てくるハッカー(正確にはクラッカー)は非常にうそくさい。よくわからないコマンドプロンプトみたいなのにカタカタカタカタとよくわからないコマンドを入力して「ビンゴ!」とかいうやつ。
そういうのに「違うだろ……」と思う人にとって、この作品のクラッカーは「DoS攻撃」とか「SNMPサーヴィスを要求」とか、非常にリアリティがある。
「ブラッディマンデイ」の数年前にすでにこういう作品があったことに驚き。
また、「指輪物語」からの引用が多いので、「ロードオブザリング」好きにもおすすめ。
IPアドレスをゲド戦記の「真の名」に例えていたのがうまいなあ。
「巧は自分もそれと同じで良いと思った。何か際立ったことを成し遂げることがあるとしたら、それは自分自身の小ささゆえなのだ。居心地のいい穴倉で暮らしながら、本当に必要な時、必要とされたときにだけ、外に出て旅をするのだ、と。
そして、今がその時なのかもしれない。ちょうどガンダルフがフロドの穴倉を訪ねて物語が始まるように、巧の穴倉を光が訪ねてやってきた。光が巧を見つけて、望んでくれた。世界を破滅から守る指輪の戦いよりはずっと小さいにせよ、彼らなりに大切なものを守り生きていくための『指輪物語』が、始まろうとしているのだ。」
引きこもりからゲーム開発者になって、対クラッカーの専門家になった主人公と対照的に、敵であるテロリストもまた、重度の引きこもりから、ネットワークの世界に才能を見出す。
意外な人物が敵の幹部だったりして、ミステリ要素もそれなりにあります。
この作品は2000年の技術をベースにしてあるとあとがきにあるけど、今読んでも古臭い感じは一切なく、それどころかむしろ現在の方がリアリティを感じる。すごい。
冒険小説?
というかなんというか。
いわゆるウルティマオンライン、FF11(14)、
ラグナロクオンライン的なMMORPGを中心とした
インターネットサービスの世界に、
2ちゃんねらー的な引きこもりニートコミュ障な人々が集い、
サイバーテロを起こそうとする敵を暴くために、
主人公がFBIに協力して立ち向かう話
……という説明でどこか気になったら是非。
世界中を熱狂させたゲーム、「S.O.U.P.」の開発から十年。プログラマから一転、セキュリティを護るハッカーとして、FBIの依頼もこなす巧に、経済産業省から、悪質なHP侵入者を突き止めてほしいという依頼が入る。犯人を追い詰めた巧が見つけたのは、自分たちの開発した「S.O.U.P.」に巣食う、サイバー・テロリスト集団だった!そして今、世界を巻き込むインターネット戦争が幕を開ける。ネット社会の陥穽を鋭く突いた、エンタテインメント・ノベル。
ちょっとパソコンを触ったことのある人(今、ほとんどの成人がそうだろうけど)にとって、ドラマとかで出てくるハッカー(正確にはクラッカー)は非常にうそくさい。よくわからないコマンドプロンプトみたいなのにカタカタカタカタとよくわからないコマンドを入力して「ビンゴ!」とかいうやつ。
そういうのに「違うだろ……」と思う人にとって、この作品のクラッカーは「DoS攻撃」とか「SNMPサーヴィスを要求」とか、非常にリアリティがある。
「ブラッディマンデイ」の数年前にすでにこういう作品があったことに驚き。
また、「指輪物語」からの引用が多いので、「ロードオブザリング」好きにもおすすめ。
IPアドレスをゲド戦記の「真の名」に例えていたのがうまいなあ。
「巧は自分もそれと同じで良いと思った。何か際立ったことを成し遂げることがあるとしたら、それは自分自身の小ささゆえなのだ。居心地のいい穴倉で暮らしながら、本当に必要な時、必要とされたときにだけ、外に出て旅をするのだ、と。
そして、今がその時なのかもしれない。ちょうどガンダルフがフロドの穴倉を訪ねて物語が始まるように、巧の穴倉を光が訪ねてやってきた。光が巧を見つけて、望んでくれた。世界を破滅から守る指輪の戦いよりはずっと小さいにせよ、彼らなりに大切なものを守り生きていくための『指輪物語』が、始まろうとしているのだ。」
引きこもりからゲーム開発者になって、対クラッカーの専門家になった主人公と対照的に、敵であるテロリストもまた、重度の引きこもりから、ネットワークの世界に才能を見出す。
意外な人物が敵の幹部だったりして、ミステリ要素もそれなりにあります。
この作品は2000年の技術をベースにしてあるとあとがきにあるけど、今読んでも古臭い感じは一切なく、それどころかむしろ現在の方がリアリティを感じる。すごい。
2012年5月15日火曜日
麻耶雄嵩「鴉」
ぼくはミステリ小説が大好きだけど、
そんな中で特に好きなのは、
田舎で怪しげな人々がいて、
変な伝承があって、
そんな環境で密室殺人とかが起きて、
名探偵が現れて、
最後に衝撃の結末が……みたいなやつ。
その路線の近年における名作がこちら。
かつて埜戸(のど)と呼ばれていた、現在は地図に載っていない名前のない村。
弟・襾鈴(あべる)の失踪と死の謎を追って、村へ足を踏み入れた兄・珂允(かいん)は、突如無数の鴉に襲われ負傷する。
大鏡様という現人神によって支配され、外界から遮断された、非文明的で排他的な村。珂允のように外から来た者は「外人」と呼ばれ忌み嫌われる存在。珂允という異質な存在が滞在する、そんな状況で、大鏡の信奉者・遠臣が何者かに殺害される。
(鴉 (麻耶雄嵩) wikipedia)
1999年ごろに徳島県でハードカバーで読み、その後に就職して沖縄在住時にふとノベルス版を買って読んでしまったり、松江に住んでいた時代に文庫版を買ってしまったり、再読するだけじゃなくて3冊も新刊で買ってしまったというほど好きな小説。
「地図にない村」というフレーズだけでぞくぞくきますね。
そして「大鏡様」の正体、村人全員がアレだったという衝撃の秘密などなど、
ぼくの好みをド真ん中ストレートに突いてくる。
人工的な設定とか、ありえないネーミングセンスとかそういう点で毛嫌いされる方もいるかもしれませんが、本格探偵小説としてはかなりレベルが高いので、ぜひ。
麻耶雄嵩は大好きで、PSPのゲーム「TRICK×LOGIC 」も含めてほぼ全作読んでいるけど、「翼ある闇 」のように未熟さが目立つこともなく、「夏と冬の奏鳴曲 」ほど難解でもない本作がぼくの一番のおすすめ。というか、本格ミステリで一番おすすめ。2012年時点で。
2012年5月14日月曜日
伊藤計劃「虐殺器官」
真っ先にこの本を紹介しています。
相手にもよるけど……。
推理小説がテーマのブログなのにいきなり推理小説じゃないけど、
第1回PLAYBOYミステリー大賞とってるからいいかな。
■あらすじ
サラエボが核爆発によってクレーターとなった世界。後進国で内戦と民族衝突、虐殺の嵐が吹き荒れる中、先進諸国は厳格な管理体制を構築しテロの脅威に対抗していた。アメリカ情報軍のクラヴィス・シェパード大尉は、それらの虐殺に潜む米国人ジョン・ポールの影に気付く。なぜジョン・ポールの行く先々で大量殺戮が起きるのか、人々を狂わす虐殺の器官とは何なのか?
(虐殺器官 - Wikipedia)
(虐殺器官 - Wikipedia)
うん、なんか難しそうなあらすじですね。ぼくも読む前はそう思っていました。日本人でないし。
でも最初の10ページほどを読むと一気!
スタイリッシュな近未来SF小説ということで、「攻殻機動隊」とか「メタルギアソリッド」に近いかもしれない。
主人公が米軍の兵士だけど、映画の「ハート・ロッカー」みたいに末端の兵士が死んでいく悲しみとか、「地獄の黙示録」みたいな体育会系の軍人がガハハハ笑いながら殺戮していく話でもない。
どちらかというと村上春樹の小説の主人公みたいに内向的な青年が、いろいろ悩みながら発展途上国に戦争の種をまく謎の人物ジョン・ポールを暗殺するために追う話。
いろいろと哲学的な話が繰り返されるんだけど、特に面白かったのがこのくだり。
サラリーマンなら、なんとなくわかる、と思う。
「仕事だから。十九世紀の夜明けからこのかた、仕事だから仕方がないという言葉が虫も殺さぬ凡庸な人間たちから、どれだけの残虐さを引き出すことに成功したか、きみは知っているのかね。仕事だから、ナチはユダヤ人をガス室に送れた。仕事だから、東ドイツの国境警備隊は西への脱走者を射殺することができた。仕事だから、仕事だから。兵士や親衛隊である必要はない。すべての仕事は、人間の良心を麻痺させるために存在するんだよ。」(310ページ)
全体的に面白い小説だけど、特に衝撃的なのがラスト。この皮肉で残酷な結末は、現在の社会情勢への身もふたもない風刺になっているのがポイントで、忘れられない。読み終えた後にすかっとした気分と、考えさせられる重い気分が残る。
そういえば最近になって、伊藤計劃さんのmixiアカウントの存在を知った。
この方、35歳という若さで亡くなられているのです。
亡くなった作家だから偉い、というわけじゃないけど、新作が読めないのは悲しいな。
この作品の衝撃の結末のその後を描いた(というふうにも読める)「ハーモニー>」、スピンオフ短編を収録した「The Indifference Engine>」もものすごく傑作なので、おすすめ。
2012年5月13日日曜日
はじめに
どうも、山陰在住の推理小説マニアです。
中学生のころから古今東西の推理小説を読み漁ってきました。
有名どころで言えば、江戸川乱歩や甲賀三郎、横溝正史といった古めの和製ミステリから、
綾辻行人や東野圭吾、最近なら道尾秀介や米澤穂信など。
海外はエドガー・アラン・ポウやエラリイ・クイーン、アガサ・クリスティ、
最近ならジェフリー・ディーヴァー(ボーンコレクターの人)や、トマス・H・クックなど。
(とはいえ、やっぱり国内の作品のほうが好きです)
山陰地方なのでジュンク堂や紀伊国屋書店や丸善といった全国チェーンの大型書店がありませんが、地元の今井書店などで頑張って本を探す日々です。
このブログではそんな私のおすすめ本を紹介したり、ミステリについて語ったりしますので、よろしくお願いします。
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